はじめに
これまでのAIセキュリティ記事では、AIアシスタント自体が乗っ取られるゼロクリック・データ流出、エージェントが読む画面に攻撃を仕込む知覚層インジェクション、社内データの権限設定に起因するオーバーシェアリングなどを扱ってきました。いずれも「AIそのもの」や「AIが参照するデータ」を守る話でした。
本稿で扱うのは、その外側にある経路です。社員は日々、ChatGPT・Gemini・Claudeなどとの会話に、顧客名、見積金額、ソースコード、人事情報といった機密を入力しています。その会話が表示されているブラウザの画面を読み取れる「拡張機能」は、AIの安全性とは無関係に、そのまま情報流出の経路になります。
実際に2025年末から2026年にかけて、数百万人規模で使われていた人気の拡張機能が、AIとの会話をまるごと収集していたことが、複数のセキュリティ企業から報告されました。中には、Chromeウェブストアで「おすすめ(Featured)」バッジを付与されていたものも含まれます。
本稿では、こうした「AIブラウザ拡張による会話収集」と、それが社内でシャドーAI化していく問題を整理します。そのうえで、情シス担当者や中小企業でも実行できる対策を、拡張機能の許可リスト、権限の棚卸し、ブラウザ管理ポリシー(Chrome Enterprise・Intune)、社内AIの利用経路の一本化という4つの層で解説します。
前提:なぜ「AIを使う画面」が狙われるのか
AIとの会話は「機密の集積地」になった
メールやファイルサーバーは、情報が部署や案件ごとに分かれて保存されています。一方、AIとの会話には、「この契約書を要約して」「この障害ログの原因を推測して」「この顧客へのお詫びメールを書いて」といった形で、業務の文脈と機密データがセットで集まります。攻撃者から見ると、1つのタブを読むだけで、ある社員の仕事の中身をまとめて把握できる、効率のよい標的です。
拡張機能は「ページの中身」を読み、書き換えられる
ブラウザ拡張機能は、許可された範囲のWebページにスクリプトを注入できます。Chromeで「アクセスしたウェブサイト上にある自分の全データの読み取りと変更」という警告が表示される拡張は、AIチャットの画面も例外なく読むことができます。さらに、ページ内の通信処理(fetch()やXMLHttpRequest、WebSocket)を上書きすれば、画面に表示される前の段階でプロンプトと応答を取得することもできます。
この処理は、AIサービス側のセキュリティ対策(暗号化通信、アカウント保護、学習へのデータ利用のオプトアウトなど)とは無関係に成立します。通信が暗号化されていても、復号された後のブラウザ内で読まれてしまうためです。
「シャドーAI化」とは何か
シャドーAIは、会社が把握・承認していないAIの利用を指します。拡張機能の場合、次の2つの意味でシャドーAIが生まれます。
- AI機能付きの拡張そのものが未承認のAI利用になる:「AIサイドバー」「ページ要約」「AI翻訳」などの拡張は、閲覧中のページや入力内容を、拡張の運営者が選んだ外部のAI APIへ送信します。社員から見ると「便利なツール」ですが、会社から見ると、契約もデータ処理の取り決めもない外部AIにデータを渡していることになります。
- AIと無関係な拡張が、裏でAIの会話を収集する:無料VPN、広告ブロッカー、PDF変換などの便利ツールが、AIサイトにアクセスしたときだけ会話を収集するケースです。利用者も情シスも「AIに関係するツール」と認識していないため、見落とされやすくなります。
実際に報告された3つの事例
以下は、セキュリティ企業の報告をもとに整理したものです。いずれも報告時点の情報で、その後に拡張機能が削除・更新されている場合があります。
| 事例 | 報告元・時期 | 規模 | 偽装していた用途 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| Urban VPN Proxy ほか同一発行元の拡張 | Koi Security(2025年12月) | Chrome・Edge合計で約800万人 | 無料VPN・広告ブロッカーなど | アップデート(v5.5.0)後に収集を開始。Featuredバッジ付き |
| AITOPIAになりすました2つのAIサイドバー拡張 | OX Security(2025年12月) | 合計約90万人 | AIサイドバー | 正規拡張の模倣。会話に加えて全タブの閲覧URLも収集 |
| PromptSnatcher(Smart Adblocker ほか) | MalExt Sentry(2026年6月) | 約9万人以上 | 広告ブロッカー | 8つのAIサービスが対象。遠隔設定で対象を追加可能 |
事例1:無料VPNが「アップデート後に」AIの会話を収集し始めた
Koi Securityは2025年12月、Chrome向けで600万人以上が利用する無料VPN拡張「Urban VPN Proxy」が、AIとの会話を収集していると報告しました。報道によると、要点は次のとおりです。
- 2025年7月公開のバージョン5.5.0から収集機能が追加され、それ以前のバージョンにはなかった
- 対象はChatGPT、Claude、Gemini、Microsoft Copilot、Perplexity、DeepSeek、Grok、Meta AIの8サービス
- 対象サイトにアクセスすると専用スクリプトを注入し、
fetch()とXMLHttpRequestを上書きして、プロンプト、応答、会話ID、タイムスタンプ、使用モデルなどを取得していた - 収集は既定で有効で、設定から無効にする手段はなく、VPNの接続状態にも関係なく動作していた
- 同じ発行元の1ClickVPN Proxy、Urban Browser Guard、Urban Ad Blockerなどにも同様の機能があり、合計の利用者は約800万人とされる
- Googleの「Featured」バッジが付与されていた
この事例が示すのは、「インストール時に安全だった拡張が、自動アップデートで性質を変える」というリスクです。導入時の審査だけでは防げないため、継続的な棚卸しと、後述する「AIサイトでは拡張を動かさない」設定が重要になります。
事例2:正規のAIサイドバーになりすました拡張
OX Securityは2025年12月、正規のAIサイドバー拡張「AITOPIA」を模倣した2つの拡張機能(合計約90万人)が、ChatGPTとDeepSeekの会話を盗んでいたと報告しました。
- インストール時に「匿名の分析データ」の収集への同意を求め、実際には会話内容を収集していた
- 会話に加え、開いているすべてのタブのURLや検索語も収集していた。URLのパラメータにはセッショントークンや社内システムのパスが含まれることがある
- 約30分ごとにまとめて外部サーバーへ送信していた
- 一方の拡張は、報告時点でFeaturedバッジを保持していた
「AIを便利に使うための拡張」を社員が自分で探してインストールすると、このようななりすましを引き当てる可能性があります。これは、シャドーAIがそのまま情報流出につながる典型例です。
事例3:AIと無関係な広告ブロッカーが会話を収集
MalExt Sentryは2026年6月、「PromptSnatcher」と名付けた事例を公開しました。「Smart Adblocker」などの広告ブロッカー拡張が、ChatGPT、Claude、Gemini、Copilot、Perplexity、DeepSeek、Grok、Meta AIの会話を収集していたというものです。
fetch()、XMLHttpRequest、WebSocketをフックし、プロンプトと応答を取得していた- 公開のフィルターリストを使って広告ブロック機能は正常に動作しており、見た目では気づきにくかった
- 設定サーバー経由で、拡張を更新しなくても収集対象のAIサービスを追加できる構造だった
- Firefox版はマニフェストで「データ収集なし」と宣言していたが、コードはChrome版と実質的に同じだった
この事例からは、ストアの表示や自己申告の宣言は、安全性の根拠にならないことがわかります。
攻撃パターンの整理:3つの型
| 型 | 入り口 | 気づきにくい理由 | 主に効く対策 |
|---|---|---|---|
| A. 偽AI拡張・AI機能付き拡張 | 社員が「AIを便利に使いたい」と自分で導入 | 本来の機能が動くため、正規品と区別しにくい | 許可リスト、利用経路の一本化 |
| B. 便利ツールに紛れた収集 | 無料VPN・広告ブロッカー・PDF変換など | AIと無関係に見えるため、AIリスクの棚卸し対象から漏れる | 権限の棚卸し、AIサイトでの拡張ブロック |
| C. アップデート後の悪性化 | 導入済みの正規拡張が自動更新で変化、または売却・乗っ取り | 導入時の審査を通過済みで、再確認されない | 継続的な棚卸し、AIサイトでの拡張ブロック |
なお、本稿のテーマは過去の記事と次の点で異なります。ゼロクリック・データ流出は「AIアシスタント自体が乗っ取られる」話、知覚層インジェクションは「エージェントが読む画面に攻撃を仕込む」話、オーバーシェアリングは「社内データの権限」の話でした。本稿は、人間が使うAIの画面を、AIの外側にいる第三者(拡張機能)が読む話であり、守る場所はエンドポイント(ブラウザ)です。
第1の防御層:拡張機能の許可リスト
最も効果が大きいのは、「原則すべて禁止し、承認したものだけ許可する」運用への切り替えです。ブロックリスト方式(既知の悪性拡張だけを禁止する方式)では、新しく見つかる悪性拡張や、アップデートで悪性化した拡張に追いつけません。
許可リスト方式の基本
- 既定は全拡張をブロック:ポリシーで「*(すべて)」をブロック対象に指定します。
- 業務に必要な拡張だけを拡張機能IDで許可:パスワードマネージャー、社内で使うWeb会議ツールなどに絞ります。名前ではなく、32文字の拡張機能IDで指定します。なりすまし拡張は名前やアイコンを真似るため、IDで指定することが重要です。
- 必須の拡張は強制インストール:セキュリティ製品やパスワードマネージャーなど、全社で使わせたいものは強制インストールにして、社員が類似品を探す理由をなくします。
- 申請フローを用意:禁止だけでは、社員が個人のブラウザや個人の端末に流れます。Chromeには、ユーザーが拡張機能の利用を管理者に申請できる仕組みがあります。申請から判断までの期限を決めておくと、運用が回りやすくなります。
許可するときの審査観点
- 発行元が実在の企業か、プライバシーポリシーとデータの送信先が明示されているか
- 要求する権限が、機能に対して過剰でないか(次の章で解説)
- AI機能がある場合、どの外部AIにデータを送るか、学習に使われるか、会社として契約できるか
- 利用者数、評価、「Featured」バッジは参考程度にとどめる(事例1・2はいずれもバッジ付きでした)
第2の防御層:権限の棚卸し
許可リストに移行する前に、まず「いま社内で何が入っているか」を把握する必要があります。後述するChrome Enterprise CoreやMicrosoft Intuneを使えば、管理下の端末にインストールされている拡張機能と、その権限を一覧で確認できます。
特に注意すべき権限
| 権限(Chromeでの表示の例) | マニフェスト上の主な指定 | AIの会話に対するリスク |
|---|---|---|
| アクセスしたウェブサイト上にある自分の全データの読み取りと変更 | <all_urls>、*://*/* などのホスト権限 | AIチャットの画面を読み取り、通信処理を上書きできる。最も重要な確認対象 |
| (ページへのスクリプト注入) | scripting | ホスト権限と組み合わさると、任意のタイミングでAIサイトにコードを注入できる |
| 閲覧履歴の読み取り | history、tabs | どのAIサービスを使っているか、会話URL(会話ID)を把握できる |
| クリップボードのデータの読み取り | clipboardRead | AIに貼り付けた文書やコード、AIからコピーした回答を取得できる |
| ページのデバッグ | debugger | ページの通信や内容をほぼ完全に取得できる。業務用途はごく限られる |
| 連携するネイティブアプリとの通信 | nativeMessaging | ブラウザの外のプログラムにデータを渡せる |
棚卸しの進め方
- 一覧化:拡張機能ID、名前、インストール台数、権限、最終更新日を一覧にします。
- 分類:「業務に必須」「便利だが代替可能」「不要・不明」に分けます。無料VPN、提供元不明のAIサイドバー、類似の広告ブロッカーが複数入っている場合は、優先して確認します。
- 既知の悪性拡張の照合:セキュリティ企業の報告に掲載された拡張機能IDと照合し、該当があれば削除します。該当した端末では、AIに入力した内容が外部に渡った前提で影響を評価します。
- 定期実施:事例1のように、アップデートで性質が変わることがあります。四半期に1回など、定期的に権限の変化を確認します。
第3の防御層:ブラウザ管理ポリシー(Chrome Enterprise・Intune)
許可リストと棚卸しを「仕組み」として強制するのが、ブラウザ管理ポリシーです。ChromeとMicrosoft Edgeは、拡張機能関連のポリシー名がほぼ共通しているため、同じ考え方で設定できます。
使う主なポリシー
| ポリシー | 役割 |
|---|---|
ExtensionInstallBlocklist | インストールを禁止する拡張。*で全拡張を既定ブロック |
ExtensionInstallAllowlist | ブロックの例外として許可する拡張(ID指定) |
ExtensionInstallForcelist | 強制インストールする拡張 |
ExtensionSettings | 上記をまとめて細かく制御。禁止する権限(blocked_permissions)や、拡張を動かさないサイト(runtime_blocked_hosts)も指定できる |
ExtensionDeveloperModeSettings | デベロッパーモードによる拡張の読み込みを制限(ストアを経由しない導入の抜け道を塞ぐ) |
要点:AIサイトでは拡張機能を動かさない
本稿のテーマで特に有効なのが、ExtensionSettingsのruntime_blocked_hostsです。指定したサイトでは、拡張機能がページの読み取りや変更、スクリプト注入を行えなくなります。会社が利用を認めたAIサービスのドメインを指定すれば、仮に悪性の拡張が入り込んでも、AIとの会話の画面には手を出せなくなります。事例1や事例3のように、アップデートや遠隔設定で後から悪性化した場合にも効く、数少ない対策です。
設定例(JSON形式。実際の拡張機能IDとドメインは自社の環境に合わせて置き換えてください):
{
"*": {
"installation_mode": "blocked",
"blocked_permissions": ["debugger", "nativeMessaging", "clipboardRead"],
"runtime_blocked_hosts": [
"*://*.chatgpt.com",
"*://*.openai.com",
"*://gemini.google.com",
"*://*.claude.ai",
"*://copilot.microsoft.com"
]
},
"(許可するパスワードマネージャーの拡張機能ID)": {
"installation_mode": "force_installed",
"update_url": "https://clients2.google.com/service/update2/crx"
}
}
注意点として、blocked_permissionsに指定した権限を必須とする拡張は、インストール済みでも読み込まれなくなります。また、runtime_blocked_hostsは最大100件までで、パスワードマネージャーなど正規の拡張もそのサイトで動かなくします。また、拡張機能ごとに個別の設定を書いた場合は、その拡張には「*」の設定ではなく個別の設定が適用されます。AIサイトで動かしたい拡張がある場合は、個別にruntime_blocked_hostsを書くか、例外として明示的に許可する必要があります。必ず検証グループで動作を確認してから全社に展開してください。
Chrome Enterprise Coreで管理する場合
- Chrome Enterprise Core(旧称:Chromeブラウザクラウド管理)は、Google管理コンソールからChromeを管理できる無料のサービスです。
- 管理下のブラウザにインストールされた拡張機能の一覧と権限を確認でき、棚卸しに使えます。
- 拡張機能の許可・ブロック、強制インストール、拡張機能の申請の受け付けなどを、管理コンソールから設定できます。
Microsoft Intuneで管理する場合
- Windows端末では、構成プロファイルの「設定カタログ」から、Microsoft EdgeおよびGoogle Chromeの拡張機能ポリシーを設定できます。
- Edgeを標準ブラウザにしている組織は、Edgeの同名ポリシーで同じ構成を作れます。
- Macでは、構成プロファイル(plist)で同じポリシーを配布します。
抜け道を塞ぐ設定もセットで
ポリシーで管理されたブラウザがあっても、次のような抜け道があると効果が下がります。
- 管理外のブラウザ:会社が管理していない別のブラウザをインストールして使う。アプリの許可リストや、標準ブラウザの指定で対応します。
- 個人プロファイル:同じブラウザ内の個人用プロファイルで拡張を入れ、そこでAIを使う。プロファイルの追加やサインインを制限するポリシーを検討します。
- デベロッパーモード:ストアを経由せずに拡張を読み込む。前述の
ExtensionDeveloperModeSettingsで制限します。
第4の防御層:社内AIの利用経路の一本化
技術的な制御だけでは、「便利なAI拡張を使いたい」という需要は消えません。需要があるのに承認された手段がなければ、社員は個人の端末やスマートフォンに流れ、さらに見えないシャドーAIになります。最後の層は、「AIはここから使う」という公式の経路を用意することです。
- 公式のAIサービスを決めて契約する:法人向けプラン(入力データを学習に使わない契約、管理者機能、監査ログがあるもの)を選び、SSOでログインさせます。
- 拡張に頼りたくなる機能を公式側で用意する:「ページ要約」「翻訳」「メール下書き」など、拡張で使いたがる機能を、公式のAIサービスや承認済みの拡張で提供します。
- AIサイトのドメインと拡張制御を連動させる:公式のAIサービスのドメインを
runtime_blocked_hostsに入れ、「公式の画面では拡張機能が動かない」状態を作ります。 - ルールを明文化する:「AIに関係する拡張は申請制」「無料VPN拡張は禁止」「AIに入力してよい情報の区分」を、社内のAI利用ガイドラインに明記します。
- 可能なら入力側のDLPも検討:ブラウザやセキュリティ製品によっては、生成AIサイトへの機密情報の貼り付けを検知・ブロックできるものがあります。予算に応じて、追加の層として検討します。
中小企業向け:最小構成で始める3ステップ
専任の情シスがいない場合でも、次の3ステップから始められます。
- 今週:社員の拡張機能を確認する
各自にchrome://extensions(Edgeはedge://extensions)を開いてもらい、入っている拡張の一覧を提出してもらいます。無料VPN、提供元不明のAIサイドバー・要約・翻訳拡張は、いったん削除します。 - 今月:Chrome Enterprise Core(無料)またはIntuneに登録する
会社の端末のブラウザを管理下に置き、拡張機能の一覧を自動で取得できるようにします。そのうえで許可リスト方式に切り替えます。 - 次の四半期:公式のAIサービスを決め、AIサイトで拡張を止める
公式のAIサービスを1つ決め、そのドメインをruntime_blocked_hostsに設定します。AI利用ガイドラインに、拡張機能のルールを追記します。
悪性の拡張が見つかったときの初動
- 遮断:該当の拡張機能IDを全社でブロックし、管理下の端末から削除します。報告にある送信先ドメインを、プロキシやDNSでブロックします。
- 範囲の特定:インストールされていた端末、期間(どのバージョンから収集が始まったか)、その間に使っていたAIサービスを確認します。
- 影響評価:その期間にAIへ入力した情報は、外部に渡った前提で評価します。会話履歴が残っていれば、機密情報、個人情報、認証情報(APIキーやパスワード)の入力有無を確認します。
- 認証情報の更新:会話や閲覧URLにトークンやAPIキーが含まれていた可能性がある場合は、該当の認証情報を失効・再発行し、AIサービスや業務システムのセッションも無効化します。
- 報告の判断:個人データが含まれる場合は、法令や契約にもとづく報告の要否を、法務や専門家と確認します。
多層防御チェックリスト
| 層 | 対策 | 主に効くリスク |
|---|---|---|
| 許可リスト | 全拡張を既定ブロックし、IDで許可したものだけ利用可能にする | 偽AI拡張、便利ツールに紛れた収集 |
| 許可リスト | 必須の拡張は強制インストールし、申請フローを用意する | シャドーAI化、類似品の導入 |
| 棚卸し | 拡張機能と権限を一覧化し、全サイトへのアクセス権限を持つものを優先確認する | 導入済みの悪性拡張 |
| 棚卸し | 四半期ごとに権限とバージョンの変化を確認する | アップデート後の悪性化 |
| 管理ポリシー | AIサイトをruntime_blocked_hostsに指定する | 会話収集全般(後から悪性化した場合を含む) |
| 管理ポリシー | 危険な権限をブロックし、デベロッパーモードを制限する | 高リスク拡張、ストア外からの導入 |
| 管理ポリシー | 管理外ブラウザや個人プロファイルの利用を制限する | ポリシーの回避 |
| 利用経路 | 公式のAIサービスを法人契約し、SSOで利用させる | シャドーAI化 |
| 利用経路 | AI利用ガイドラインに拡張機能のルールを明記する | 社員の判断による導入 |
| 初動 | 遮断、範囲特定、影響評価、認証情報の更新の手順を決めておく | 発覚後の被害拡大 |
よくある質問(Q&A)
Q1. ChatGPTなどの法人向けプランを契約していれば、拡張による収集は防げますか?
防げません。法人向けプランは、入力データを学習に使わない、管理者が利用状況を確認できるといった、AIサービス側の保護です。拡張機能による収集は、社員の端末のブラウザ内で、画面や通信が復号された後に行われます。そのため、ブラウザ側の対策(許可リストやAIサイトでの拡張ブロック)を組み合わせる必要があります。
Q2. ストアで「おすすめ(Featured)」バッジが付いている拡張なら安全ですか?
安全の保証にはなりません。本稿で紹介した事例1と事例2では、報告時点でFeaturedバッジが付いていました。バッジは審査時点の評価であり、その後のアップデートや遠隔設定による変化までは保証しません。
Q3. AI機能のない拡張(広告ブロッカーなど)も対象にすべきですか?
対象にすべきです。事例1は無料VPN、事例3は広告ブロッカーでした。判断の基準は「AI機能の有無」ではなく、「AIサイトを読み取れる権限を持っているか」です。全サイトへのアクセス権限を持つ拡張は、すべて確認対象と考えてください。
Q4. 許可リストにすると、社員から不満が出ませんか?
不満は出やすいので、禁止とセットで代わりの手段を用意することが大切です。業務に必要な拡張は強制インストールで最初から入れておき、それ以外は申請フローで受け付けます。AIで要約や翻訳をしたいという需要には、公式のAIサービスで応えます。代わりの手段がないまま禁止すると、個人端末での利用が増え、かえって見えないリスクが増えます。
Q5. 個人の端末(BYOD)で業務のAIを使う場合はどうすればよいですか?
個人の端末の拡張機能を会社が完全に管理するのは困難です。業務でのAI利用は会社が管理する端末やブラウザに限定するか、管理されたブラウザのプロファイル(会社アカウントでサインインし、ポリシーが適用されるプロファイル)からのみ公式のAIサービスにアクセスできるよう、SSOの条件付きアクセスで制御する方法を検討してください。
まとめ:「AIを使う画面」もセキュリティの対象にする
本稿の要点は次の3つです。
- AIとの会話は、AIの外側から盗まれ得る:拡張機能は、AIサービスの保護とは無関係に、ブラウザ内で会話を読み取れます。偽のAI拡張だけでなく、無料VPNや広告ブロッカー、アップデートで悪性化した拡張も経路になります。
- 許可リストと棚卸しで「何が入っているか」を管理する:ブロックリスト方式では追いつけません。既定ブロックとID指定の許可、権限の定期的な棚卸しを基本にします。
- AIサイトでは拡張を動かさず、公式の利用経路を用意する:
runtime_blocked_hostsで公式AIサービスの画面を拡張から切り離し、社員が「AIはここで使う」と迷わない状態を作ります。
社員がAIに入力する情報の価値が高まるほど、その画面を読みたい第三者も増えます。モデルやエージェントだけでなく、社員がAIを使う画面そのものを守る対象に加えることが、これからのAIセキュリティの前提になります。
参考リンク
- Dark Reading「Browser Extension Harvests 8M Users’ AI Chatbot Data」(Koi Securityの調査に関する報道)
- Infosecurity Magazine「Urban VPN Proxy Accused of Harvesting AI Chat Conversations」
- OX Security「900K Users Compromised: Chrome Extensions Steal ChatGPT and DeepSeek Conversations」
- MalExt Sentry「PromptSnatcher」レポート
- Chrome Enterprise ヘルプ「ExtensionSettings ポリシーを設定する」
- Microsoft Learn「ExtensionSettings ポリシーを使用した Microsoft Edge 拡張機能の管理」
本記事は、2026年10月時点で公開されている情報にもとづく一般的な情報提供を目的としています。特定の製品やサービスの安全性を保証するものではなく、法的助言でもありません。記載した事例は各セキュリティ企業の報告時点の内容であり、その後に状況が変わっている場合があります。ポリシーの設定は、自社の環境や関連法令に照らして検討し、検証環境で動作を確認したうえで適用してください。必要に応じて専門家にご相談ください。

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